[レビュー][旧記事] 続アフター「学習英文法シンポジウム」: 「文法指導の基本原理」(Thornbury 1999)について
Thornbury (1999)は、「なぜ文法を教えるのか」(Why teach grammar?)という章(pp. 14-28)で、文法指導に対する賛否両論と教授法の略史を概観した上で、「文法指導の基本原理」(basic principles for teaching grammar)について述べている。引用が長くなるので、まとめだけ引用する(Thornbury 1999: 28; 塩沢訳 2001: 49-50。つーか、値段高ッ)。
Grammar presentation and practice activities should be evaluated according to:
- how efficient they are (the E-factor)
- how appropriate they are (the A-factor)
The efficiency of an activity is gauged by determining:
- its economy – how time-efficient is it?
- its ease – how easy is it to set up?
- its efficacy – is it consistent with good learning principles?
The appropriacy of an activity takes into account:
- learners’ needs and interests
- learners’ attitudes and expectations
文法提示と演習活動は次の基準に従って評価されるべきである。
- それらがいかに効果的(efficient)であるか(E要素)
- それらがいかに妥当(appropriate)であるか(A要素)
活動の効率性は次のものを決定することで測定される。
- 経済性(economy)−−どれだけ時間を節約できるか
- 簡便性(ease)−−どれだけ準備が簡単か
- 有効性(efficacy)−−よい学習原理に一致しているか
活動の妥当性には次のことが含まれる。
- 学習者の要求(needs)と興味(interests)
- 学習者の態度(attitudes)と期待(expectations)
前記事のレベル5(特に実際の授業)については確かにそうだと感じるところも多い。「意味順」などの指導法が評価される理由の一つを、E要素の「経済性」・「簡便性」・「有効性」に求めることもできるだろう。具体的実践を通じて「学習原理」を明らかにする研究が重ねられていけば、実践者にとっては「学習文法」の善し悪しを測る最も分かりやすい基準と言えるかもしれない。
一方で、「経済性」とは誰にとっての、なんのため、どういう意味での時間の節約なのか、A要素は意味のある形の「基準」足りうるのか−−(考慮しなくてよいとはもちろん言わないが)「学習者の能力・個性に応じて」という常套句と同じ類いのおためごかし、つまり重要なことを言っているようで、ある意味で当然過ぎて何も言っていないに等しいのではないか−−といった課題は残る。「文法提示と演習活動」の前段階にあるレベル4の教育文法研究(からレベル5の具体的な授業プログラム、カリキュラム編成にかけての研究)にとっては、「効率性」を超えたところでの考察が必要だ。
次の記事では、
- 田中武夫・島田勝正・紺渡弘幸(編)(2011)『推論発問を取り入れた英語リーディング指導: 深い読みを促す英語授業』三省堂