[レビュー][旧記事] ケンカの後始末,またはSpada & Tomita (2010)について。
先日、秋田で開催された外国語教育メディア学会(LET)関西支部2013年度第2回研究会で、浦野研先生(北海学園大学)と「英語教育研究における追試(replication)の必要性 」と題する発表をしました(投影資料とUstream映像はこちら)。
以下は,この報告についての補足です。
報告の中で,私はNorris & Ortega (2000)のメタ分析の問題点を指摘しました。
- Norris, J., & Ortega, L. (2000). Effectiveness of L2 instruction: A research synthesis and quantitative meta-analysis. Language Learning, 50, 417–528. DOI:10.1111/0023-8333.00136
指導方法や対象となっている文法項目があまりにも異なり,また十分網羅されているとは言えず,こうした研究をsynthesizeしても広くぼやけたことしか言えない(のでひとつにまとめるべきではない)というのが結論です。
その際,各研究で指導の効果がどのように測定されているかを調べ,「明示的知識を測っているもの」と「暗示的知識を測っているもの」に分けてみました。明示的知識を測っているものに偏っているというのが結論です(詳細は,上記リンクの投影資料をご覧下さい)。この点についてはNorris & Ortega (2000)も,数は示していませんが,結論の考察で触れています(p. 501)し,JACET SLA研究会(編) (2013, p. 189)にも類似の指摘がありました(後者については存在を失念していました)。
JACET SLA研究会(編) (2013).『第二言語習得と英語科教育法』開拓社.
Norris & Ortega (2000)以降のいくつかのメタ分析に言及しましたが,その際,挙げなかったものにSpada & Tomita (2010)があります。
- Spada, N., & Tomita, Y. (2010). Interactions between type of instruction and type of language feature: A meta-analysis. Language Learning, 60, 263–308. DOI:10.1111/j.1467-9922.2010.00562.x
1990年-2006年までの41の研究について,(a)明示的・暗示的指導についてはNorris & Ortega (2000)と同じ基準で,(b)文法規則を単純なもの・複雑なものに,(c)指導効果の測定法を統制課題と自由構成課題とに分類してメタ分析を行っています。詳細な検討は今後に譲りたいと思いますが,Spada & Tomita (2010)も,Norris & Ortega (2000)に対して指摘した問題を克服してはいません。むしろ同じ問題を抱えたままだと言えます。
まず,(b)の単純な文法規則・複雑な文法規則の分類基準は,形態統語的な操作が1つ(例えば,「過去形の-edを付加する」)か2つ以上か(例えば,wh疑問文を作る際は「変項をwh語に置き換え,wh語を前に出し,doを足し等々」)という基準です。これに基づいて,時制・冠詞・複数形・前置詞・主語/動詞の倒置・所有限定詞・分詞形容詞が単純な規則に,与格交代・疑問文・関係代名詞・受動態・疑似分裂文が複雑な規則に分類されていますが,少なくとも私には,文法指導の観点から見てsynthesizeするのに適切な分類とは思えません(例えば冠詞を形態統語的な側面だけで単純な規則に分類していいかどうかということについては,Spada & Tomita (2010)自身もDiscussionの部分で触れています(p. 289))。一つの試みだとは思いますが,moderationというか構成概念というか,もう少し丁寧な考察が必要だと考えます。
もう1点,(c)について,Norris & Ortega (2000)の4分類を上記の2分に変更したのは主としてメタ分析に含める研究数の少なさによるもので,積極的な理由があるようには見受けられません。さらに,いずれの測定法が明示的知識・暗示的知識のいずれにtapするとみなすのか,なぜそうだと言えるのかといったことについて詳しくは述べておらず,浦野先生と私が今回の発表で指摘した問題をクリアした研究とは言えないようです。
したがって,「Spada & Tomita (2010)は,両タイプの指導[明示的指導と暗示的指導――引用者]と,獲得する言語能力のタイプ(明示的知識と暗示的知識)の関係を調査し,明示的指導は明示的知識を測るタイプのテスト[例:文法性判断テスト、多肢選択問題など]だけではなく,暗示的知識を測るタイプのテスト(例:自由なライティング・タスク、絵・写真の描写タスク)においても学習効果が見られ,特に,複雑な文法項目の暗示的知識を測るテストにおいて効果があったと報告している」というJACET SLA研究会(編) (2013)のまとめは明らかに誤りでしょう(JACET SLA研究会(編), 2013, p. 190)。「自由なライティング・タスク」や「絵・写真の描写タスク」であっても,じっくり考える時間をかけられるものだったとすれば(定義上)暗示的知識にtapしているとは言い難いからであり,Spada & Tomita (2010)も(c)についてそのような対応づけはしていないからです。
ということで,売った「ケンカ」の後始末をするつもりで書き始めたら,別の「ケンカ」を売る形になってしまいました。いつかのメソ研にご期待ください。