[レビュー014] 『荒木飛呂彦の漫画術』!読まずにはいられないッ!
ジョジョの奇妙な大学教員としては当然、出版されたと思ったらいつのまにか読んでいた。何を言っているのかわからねーと思うが、ひとりのプロフェッショナルの哲学と仕事に対する姿勢に触れられるという意味で、漫画に対する造詣やスタンド能力の有無にかかわらず読んで損をしない本だ。荒木作品からの引用がふんだんに盛り込まれているのも集英社の新書ならでは。
- 荒木飛呂彦 (2015).『荒木飛呂彦の漫画術』集英社.
手にとってもらったほうが早いので、中身についてくどくど解説するつもりはないが、研究もつまるところは人間讃歌のはずなので。
昨年、仲間内で
- Silvia, P. J. (2007). How to write a lot: A practical guide to productive academic writing. Washington, DC: American Psychological Association.
が話題になり手にとった。今年その邦訳が出版されたようだ(未見)し、さらには最近その続編とも言えるSilvia (2015)も出た。
- ポール.J・シルヴィア(高橋さきの(訳))(2015).『できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか』講談社.
- Sylvia, P. (2015). Write it up: Practical strategies for writing and publishing journal articles. Washington, DC: American Psychological Association.
原著2つを読む限りどちらもひたすら耳の痛くて泣いちゃうばかりの非常に良い本だが、『荒木比呂彦の漫画術』も同じように研究に通じるのではないかと思う箇所がいくつもあった。例えば、
…漫画の台詞においては、難しい漢字を使ったり、横文字を入れるからかっこよい、というようなことは絶対にありません。「ちょっと格調高くしてみよう」などと、妙に着飾った言葉を使ってみたり、深く考え込んだりしない方がいいと思います。
やはり、自分の人生に関わっているような考え方を、普段しゃべっているような、わかりやすい言葉で伝えていくのが一番です。そこからにじみ出てくるものが必ずありますし、それが自分の世界を表現することにつながります(p. 142)。
Exactly(そのとおりでございます)
漫画を描き始めてからしばらく経つと、「最近、なんか全然ダメだな」という時期が必ず来ます。それでも、多少悩んでも、とにかく描き続ければ突破できるものです。そもそも、描いていなければ、悩むということすら起こりません(p. 177)。
UUURRRRYYY!!
…これは漫画家生活が軌道に乗ってくると次第に浮上する問題なのですが、とにかく連載を続けるということには膨大な時間と体力が必要です。締切りを過ぎると心理的にも肉体的にも次第に追い込まれ、ようやく脱稿して翌週の打ち合わせへ臨むころには心もヘトヘト……。これでは、よい漫画を描き続けることはできないでしょう。そもそも、こうした取材はおろか、アイディアを得るために様々な映画を観たり本を読んだりする、そんな時間すらなければ、漫画家としてすぐに枯渇してしまいます。
ですから、最も基本的なことですが、締切りを守ること、そのために一定のリズムで漫画を描き続けることは何よりも大切だということを、ここにあえて記しておきます(p. 211)。
HEEEEYYYYあアア(略
荒木先生が漫画の「基本四大構造」として挙げている図式も、研究に対応させて考えながら読んでいた。本書では、重要な順に
- キャラクター
- ストーリー
- 世界観
- テーマ
を挙げているが、研究の場合、
- 研究課題(Research Questions)
- リサーチのデザイン
- アプローチ
- 研究の背景
がそれに該当するだろうか。もちろん「この四つは、それぞれ独立して存在するのではなく、互いに深く影響を及ぼし合っています」(p. 48)というのは研究も同じだ。しかし、「これらの要素を増補し、統括」(p. 48)する、漫画における「絵」に当たるものは何だろうか。スタンド使いの研究者各位は、各要素の解説を読んで考えられたい。
ジョジョ・ファンとしても、キャラクターづくりの「身上調査書」など、きわめて理詰めで作られている辺りを興味深く拝読した。
To be continued…(続かないけど)