[レビュー027] We Are Who We Are(『心理学評論』59, 1)

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を読了。まず池田・平松 (2016)を読めば全体が理解しやすくなる。渡邊 (2016)は必読。全部勉強になったが、個人的には小塩 (2016)、藤島・樋口 (2016)と三中 (2016)を特に興味深く読んだ。

渡邊( 2016)の「デモンストレーションとしてのデータ」という話は、外国語教育研究にも当てはまる所がかなりあるのではないか。外国語教育研究一般がそうなっているというのではなく、特に何かを「現場」に浸透させようとする過程で誰かが「エビデンスに基づく議論を!」と言う時、そこで求められているのはデモンストレーションとしてのそれなのではないかと勘繰らざるを得ない、という話。英語教育(実践)研究はなぜ「エビデンス」っぽく見えるものを求める(ようになった)のかについては、ポーター『数値と客観性』などの所論と併せて、どこかでまとめたいと思っている。

さしあたり、本特集を通じて私は、鮫島 (2016)の言うように、

そもそも、科学というのは、なにか唯一無二の「真実」を「発見」することではなく、人が自然を理解するために世界の見方やモデルを仮説とし て構築・提案し、その証拠を様々なアプローチで検証・更新するというプロセスのことではなかったか(p. 45)

ということと、コメントで三中 (2016)が言うように、

本特集の 中心的テーマである「再現可能性(replicability)」についていえば、確かに実験系の科学では得られた結果が再現できるかどうかは重要なことかもしれない。しかし、非実験系の科学では結果の再現性よりもむしろきちんと推定できているか、まっとうに説明できているかどうかの方により重きが置かれるだろう(p. 123)

ということの確認が重要であるように思われた。小塩 (2016)の言う通り、結果において「単に数値を報告して終わるのではなく、その数値の積極的な評価と解釈」こそが求められるというわけだ(p. 77)。

しかし、だからこそと言うべきか、こちらで柳瀬先生が佐倉 (2016)を引いて大切にすべきと説く多元性以上に、

そこで、心理学者が普遍的真理について常に考えるために必要なのは、まずは、内的妥当性を高める研究デザインと測定方法の改善に努めつつ、複数の小さい研究を積み上げることである(p. 121)

という平井 (2016)の指摘をこそ外国語教育研究も重く受け止めるべきだと感じた。重要なことはその際に、

 

もしその事象に影響するすべての潜在変数が発見されれば、潜在変数の影響と現象自体の確率性を切り分けることができるが、とくに非実験系の心理学が取り扱うような現象で、その現象に影響 するすべての変数が特定され、操作や統制が可能になるということは考えにくい(p. 100)。

という渡邊 (2016)の指摘にどの程度自覚的であるかということだろう。

例えば、教員養成系の発達心理学関連の授業では今もメルツォフの新生児模倣やピアジェの発達段階説が普通に紹介されていると思うが、森口 (2016)のような問題意識を持って、彼らがそれをどのように調べたのか、調べ方に課題はないのか、その解釈は本当に妥当なのかといったことを問う視点は珍しいのではないか(最近、発達心理学の人と交わる機会は乏しいので正確なところはわからない。森口 (2016)のような視点と方法を持った先生が多ければ嬉しい)。第二言語習得・外国語教育研究の概説書によく登場する理論についてそういう懐疑を向けた研究はどのくらいあるだろうか。

渡邊 (2016)を引いて柳瀬先生が言う「再現可能性を目的にすべきことではない」という主張には同意するが、具体的な研究・追試の「再現性」についてはむしろ、渡邊 (2016)のように腑分けして徹底的に考えたほうがいいとさえ思う。現状として、外国語教育研究が多元性を多元性として許容できるほどに「合理性を担保」(佐倉, 2016, p. 140)できているようには私には思えず、本特集を読めば読むほど「それ以前」の段階にあると感じるからだ(柳瀬先生の提案する「実践者の共感的理解を得られる研究の実現のために試行錯誤する中で考え」るというルートがうまくいくのであれば、それを否定するものでもないけど)。私は、量的アプローチを研ぎ澄まし適切なレベルの再現性を追うことが「研究者と実践者の間の溝を深く」するというよりも、中途半端な研究デザインや測定方法で量的アプローチを気取ることのほうが「溝」や実践者のため息を生む要因になっていると考える。

むしろ外国語教育研究者は、デモンストレーションではないデータをどのくらい実践の側に示してきたと自信を持って言えるのだろうか。そういうことを考えた。

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