[本011]『みみずくは黄昏に飛びたつ』(川上・村上, 2017)
抜群におもしろかった。
- 川上 未映子・村上 春樹 (2017).『みみずくは黄昏に飛びたつ』新潮社.
どれぐらいおもしろかったかと言うと、第2章まで読んで、あ先に読んでおいたほうがいいのかと思い、忙しさにかまけて買ったまま積んでおいた『騎士団長殺し』を読み始めたものの、ガマンできなくて先に本書を読み切ってから『騎士団長殺し』2冊も一気に読んでしまい、その勢いで、未読だった『職業としての小説家』も半分くらい読み進めてしまった(ところで我を取り戻しさすがに仕事に戻った)ぐらい*1。
それは、私が川上未映子さんという作家との間に、本書のなかで触れられる、「信用取引」を成立させているからでもあるが、彼女のインタビュアーとしての力に拠るところが大きい。単に小説家・村上春樹を尊敬し、昔からその作品を愛読してきたというだけでなく、彼の作品を知悉し、それがちゃんと読者としての自分というフィルターを通して咀嚼されており、複数の観点から必要な時に参照できる形で整理されており、『騎士団長殺し』を中心に、関連し得る様々なことを事前に調べ考えてからインタビューに臨んでいる。読みながら、その真摯さにほとほと感心してしまった。
『騎士団長殺し』が発売された際に「この作品自体が最良の村上春樹入門」といった感じの書評があったと思うが、『みみずくは黄昏に飛びたつ』(の特に第2、3章)を読んでから読むと、「入門」として最良かどうかはともかく、この作品自体がより奥行きを持って読めると同時に、確かにそこに、これまでの長編作品を重ね合わせた彼の創作の哲学と方法を感じることができた。さらに、対談で言及のあるシーンに出くわすとやりとりが副音声のように呼び起こされ、かつてないほど贅沢な読書の時間を過ごした。
小説やエッセイを読むというのはきわめて私的なことだと思うので、買ったものについて普段「今日の入荷品」投稿にいちいち挙げることはしないし、読んだことも特に言わないことが多いけども、『みみずくは黄昏に飛びたつ』は、「物語る」ということについて興味のある人にとって絶対に読む価値がある。個人的には、カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』を読んで突きつけられたある種の問題について、本書を通じて自分なりに腑に落ちる答えを出すことができた。
大切だと信じることは、何度でも、形を変えて語り直す価値があるし、またそうし続けなければいけない。
*1 クールダウンがてら、さらにその勢いで読んだ、
- 山中 伸弥・羽生 善治・是枝 裕和・山極 壽一・永田 和宏 (2017).『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』文藝春秋.
は、是枝監督と山極先生目当てに手に取ったのだが、とりわけ羽生さんの講演・対談が印象に残った(目当ての二人もそうだし山中先生の話も面白かった)。自分史の中の「何者でもなさ」というより、他者も含めたそれ一般を俯瞰・整理できていて、聴衆にきちんと届けている感じが特に。
その後、編者となっている本の校正もしたので、この土日で2000ページぐらい読んだ。読む順序が逆だったらそうはならなかったかもしれない。