[授業後016] 目的・場面・状況に応じた表現使用、単元を通じた思考の深まり

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先日、共同研究者として附属小の公開授業研究会に参加した際の記録。あるいは目的・場面・状況に応じた表現使用と単元を通じた思考の深まりの間の、難しくておもしろい関係について。

3年生はI love nature.の5時間目。留学生を招いて日本の生き物クイズ大会を行う前のWho am I?クイズ。蝉や鈴虫、バッタにカマキリ、確かに静岡の日常的にはそんなに縁遠い生き物たちではないものの、3年生が15種類もの生き物についてAre you cicada? Are you mantis?と話し合う様子はなかなかすごいものがある。
絵本のTen Little LadybugsからWarm-upのシルエット・クイズと、児童同士がクイズを出し合うまでの流れもスムーズ。多くの人は、3年生にこれだけの表現を与えていること、そして実際に児童たちがそれをどんどん発話していることに驚くだろう。この日に至るまでの積み重ねを感じさせる。その一方でほとほと感心するのは、What season do you like?でどの季節に見られるかを訊き、Where do you like?でどこを住処とするかを訊き、Can you …?で動作の特徴を訊くという、この題材に対するavailableな表現の組み合わせの工夫だ。

ただ、児童のほうがこれらの表現を状況に応じて用いることができているかというとそうでもない。例えば鶴(crane)を正解として持った際にある児童は、相手のWhere do you like?の質問に戸惑った様子で「Do you likeって何だっけ?」と返し、相手に「ねえ色訊かないの?」と求めた。つまり彼はWhat color?と訊いてもらえればWhite.と返す用意はあったのだろう。しかし、雪上に舞う鶴の写真に対してon the snowというヒントは黒板状(あるいはこれまでの練習)に無く、そもそもこの写真に対してwhereを描写するという想定がなかったようである。相手がcraneを当てた後、私が二人と(鶴が立っている雪原を指差して)”What is this?”「雪!」”In English?” (相手の児童が)”Snow.” “So, you’re on the snow, “on the snow.””とやり取りした際、相手の児童は「あー」と反応していたが、彼は依然としてそれほど納得していたようには見えなかった。あくまでcraneは、whiteとI can fly(飛べる)での勝負だったのだろう。別のペアでは、蛍(firefly)に対してCan you fly?という質問があったのだが、彼女はNo(, I can’t).と答えた。彼女が蛍の生態を知らなかったのか、I can …をこの写真の状態を描写する表現と捉えていたのか、両方なのかはわからない。その後のやりとりで(これまでに出てきたもの以外で残りのカードは…等、児童はいろいろ考えるので)相手の児童は蛍を当てたのだが、「蛍、飛ぶじゃん!」という異議申し立てをすることはなかった。

言いたかったが言えなかったことのsharing timeでは、8個から15個に増えた生き物の名前(を産出すること)自体の難しさに児童の声は偏った(と先生は受け取った)。語彙の増加ももちろん大きく影響しているにせよ、これだけの表現がパズルのように組み合わされた時に、上のような状況に対して「雪の上にいるってなんて言ったらいいんだろう?」という気持ちが児童たちにどの程度芽生える余地があったかということを考えたい。児童にとってavailableな表現が「生き物のすみかや特徴」の記述だと言うためには、上述のような展開で「写真では葉っぱの上に止まっているけど、蛍は飛ぶよね」と相手に確認することや、振り返って自分たちの知識を問い直すことがどこかで必要だろう。

こうしたことを今後考えていく上でのヒントも児童の発言にあったように思われる。Sharing timeで、相手とのやりとりの展開をそのまま再現した(ぼくがこう言ったら、相手がこう言ったので、こう思ってこうかなってなったんだけど、ああ言ったら…的な語りをした)児童がいて、深掘りされることはなく、「それって(難しかったこと・言えなかったことじゃなく)当て方の説明じゃん」と他の児童にツッ込まれて終わっていたが、「言いたかったけど言えなかった表現」だけにこだわるのではなく、(児童たちが上手に言語化できるかどうかはともかく)こうした発言を拾って、彼らのやりとりの過程を分析することも極めて重要ではないかと思いながら私は見ていた。別の場面で、別の児童から「ヒント1個聞いたら何かわかった」という発言もあった。つまり、上述の児童たちの言動は、自然界の生き物に対するセンス・オブ・ワンダーよりも、クイズ大会に向かう単元の中のクイズの出し合いという行為の中にあり、色や場所や行動はその試行錯誤に埋め込まれているというわけだ。対象世界に対する認識面で言えば、いい面も悪い面もあると言える。今後の課題だ。

4年生はUniversal tourism.の6時間目。来年パラリンピックの代表が合宿をするということで、同じく留学生交流会で、市役所の職員も招いて街中のバリアやUDについて話し合うために、駅周辺の写真をもとにペアでインタラクション。

児童たちは総合的な学習の時間に、ユニバーサルデザインの専門家の講義を聞き、駅から観光名所までの車椅子で移動可能なルートを実地調査している。昨年の6年生の防災の実践の際のあり得る危険の指摘はあくまで仮想だった(とはいえ、その時もその時で少し前に停電があったので防災に対する意識はかなり高まった状態だった)が、駅付近の写真から見える奥のほうが坂になっていてbarrierだと言う児童の発言は、彼の調査での経験に基づくものだったのだろう。だから、授業の冒頭から3年生と比べて若干落ち着きのない様子ながらも、児童たちの視点は既に、写真を初めて見た参観者たちの一歩も二歩も先のディティールにあって、その質の高さに私は感心仕切りだった。

例えば、別の児童は「点字ブロックの上に立っている人が(視覚障害者にとって)barrierになる」と言う。静止画の人を指しての描写なのでThis is a barrier.でよいということで先生は引き取って、(BE問題がややこしいので)people、personといった表現のみ導入したが、People can be a barrier (when they stand on Braille blocks).と言いたいのだろう。同様に、活動中「This is a universal design, でも、えーっとなんて言ったらいいのかな」と言いあぐねていた児童に後で「なんて言いたかったの?」と訊いたら、「ここのところが…」と横断歩道の白字が排水溝?と重なっているところを指差した。「横断歩道(のエスコートゾーン)自体はUDなのだが、この部分は視覚障害者を混乱させるもととなる」と言いたいわけだ。つまり少なくない児童の視点は、講義で聞いたのか実地調査の経験に基づくものかはわからないが、どこかが常にbarrierだとかUDだというよりも、そうでもない場所が場面や状況によってbarrierになり得る、という高度で複雑な見方に至っている(精緻に言語化できるほどではないとしても)。授業の最後はニューヨークのGCTやロンドンのキングズクロス駅の写真にbarrier/UDの視点を適用して終え(、これはこれで教材として非常に素晴らしいとも思っ)たが、個人的には、あるモノがuniversal designであるというのはどういう意味でなのかや、街は誰にとってどういうときにbarrierを生むのかということのリフレクションをしたいと思った。本時あるいは単元を通じて、そこの思考が深まっているかどうかが気になったのだ。上の「4年生は…」の段落のまとめだけでも伝わる通り、これだけの単元を構想して具現化できることが何よりすごいのだけれど。

アメリカやイギリスに飛ぶ前に、児童たちのグループごとの実地調査のマップを一枚に重ね(このワンシーンだけでご飯三杯はいける)、駅から観光名所までの適したルートをタブレット上でたどっていったが、ある意味でこれほど形式的にならずにGo straight.やTurn right.が飛び交う授業を見たのは初めてだ。なぜなら、彼らが使っているgo straightやturn right/left、そしてstop!は、単なる指示ではなく「そこはまっすぐ行ける」、「そこは曲がらないと行けない」というUD的案内だから。小中学校を長く苦しめてきた「実際の道案内ではそんな表現使わない問題」(だからボードゲームに落とし込むか、リアルな道案内タスクでは別の表現を導入するか)についてはどこかで書いた気もするので詳述しないが、このクラスの児童たちにとって画面の地図はただの地図ではなく、Googleストリートビューのように自分たちが辿り調べた道を脳内で再生しながら、誤って商業施設をぶち抜いたりしながら、遊ぶ先生をstopで諌めて、観光名所を目指すルートをみんなで画面に引いた。彼らの学びの濃さ深さは推して知るべし。

Warm-upのフォニクス・クイズの2問目で、先生は5名の児童の協力を得てcrowdを出題した(後の写真の描写で活用)。音からcrowdという単語が分かった後、先生が意味を聞いたら「雲」(cloud)や「カラス」(crow)と言う児童がいた。音(素)の認識と文字の認識の関係をいろいろ考えさせる4年生、ずっと観察していても飽きない。

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