[雑感094] 機会があれば訳したい文献
標題の通り、機会と時間があれば訳したいと思っている文献。どれも良い文献で、私などよりうまく訳せる人は多くいると思うので、誰かが訳して出版してくれるなら全然それでも構わない。
以前の投稿でも紹介した
- Macken-Horarik, M., Love, K., Sandiford, C., & Unsworth, L. (2017). Functional grammatics: Re-conceptualizing knowledge about language and image for school English. Routledge.
は、先日講師を務めたセミナーでも参照したが、読書会で読み進めるにつれますます訳して紹介したいと思うようになった。機能文法の解説は別途必要になるかもしれないが、国語教育や日本語教育の人たちとの対話にも有益で、マルチモーダルの観点も含めて、日本の言語教育の視点を何段階も引き上げてくれる文献になると思う。
上記はfunctional grammaticsの立場から、narrativeとpersuasionを捉える理論・言語資源・指導のあり方を論じるものだが、同じ枠組みに基づくジャンル(言語使用の目的)ごとのより詳しい文法解説書としては
- Derewianka, B., & Jones, P. (2016). Teaching language in context (2nd ed.). Oxford University Press.
の翻訳があると良いと考えている。オーストラリアの中等教育の教師向け文法解説書というところ。具体的には、「物語世界を鑑賞・創作するための言葉」、「起きたことを順序立てて述べるための言葉」、「世界を観察・記述するための言葉」、「どのように、なぜを説明するための言葉」、「他者を説得するための言葉」、「応答するための言葉」、「探究するための言葉」という章立てで、具体例も豊富、というより今の日本の英語教育の水準からすれば、高度過ぎると映るかもしれないが、現状に何が不足しているかを把握する上でも有益だろう。
こちらについては数年前に院生とのプロジェクトで下訳を一応、完了しているのだが、ある出版社から、版権が高くて採算を取るのは難しいだろう話を聞いて、忙しさにかまけて手直しの手は止まっている(上に、Macken-Horarik et al.が先かなと思うところもある)。なんとかなるよという出版社の人がいたら連絡ください。
英文法については、Huddleston & Pullum (Eds.)ことThe Cambridge grammar of the English language (CGEL)が開拓社の英文法大事典シリーズとして訳されて素晴らしいことだと喜ぶ一方で、英語学を専攻する院生・学生でもない限り、なかなか手に取らないだろうなあとも感じる。開拓社の言語・文化選書は大好きで、良い本もたくさんあるのだが、英語教師が、言語学的観点で文法の全体像を掴めるような文献が欲しい。それには、
- Payne, T. E. (2010). Understanding English grammar: A linguistic introduction. Cambridge University Press.
の邦訳があると良いと思っている。言語学・英語学の人からすると物足りなく思うところもあるかもしれないが、一冊に内容がしっかりまとまっていてForm-Meaning-Useの枠組みとも相性が良い。大学院の授業で読んだ際、院生は相当しんどかったようだが、元がアメリカの学部生あたりを対象としたものなので、良い邦訳さえあればもっと広く…と思う次第。
- Hall, J. K. (2019). Essentials of SLA for L2 teachers: A transdisciplinary framework. Routledge.
第二言語習得研究に強い思い入れがあるわけではないが、国内に認知主義的なアプローチを採る人が多いせいか、紹介される文献や和書で手に入る文献もそれに偏りがちだ。そのため原著自体あまり日本では知られていないように思うが、今現在、先生がたや学生・院生に薦める上で、知見としてup-to-dateで、かつ実践的観点から見て最もバランスが取れた一冊だと思うのはこれ。そういう授業を担当している人がテキストに指定してくれればそれでもいいが、勉強したいと思った人が読めるように翻訳があることが望ましい(それは第二言語習得研究の裾野を広げ、底上げにもつながるはず)。私だけでは心許ないので、ちゃんと第二言語習得研究を分かっている人と一緒に訳せると良いなとは思うが。
より教科一般的な、教育方法学的関心として、
- Illeris, K. (2017). How we learn: Learning and non-learning in school and beyond (2nd ed.). Routledge.
を訳しておきたいという気持ちがある。著者は、錚々たる顔ぶれが並ぶContemporary theories of learning: Learning theorists … in their own wordsの編者を務めているぐらいで、国際的にはすごく有名なのだろうと思うが、元が成人教育の分野だからか国内で名前を聞くことはほとんどない。Contemporary theories of learning …のほうも邦訳があればそれに越したことはないし、日本でも頻繁に言及される著者とそうでない著者の違いはどこにあるのかということも興味深いところだが、みんながそれぞれの思い入れを込めて使いがちな「学習」(learning)を(学校外も射程に含めつつ、特に学校教育の文脈で)議論する上での基本文献として本書の邦訳があると良いのではないかとふと思う。学習科学や教育心理学の人が誰か訳してくれているのであればそれで全然構わないのだけれど。
さらに自身の興味を優先させれば、遅くとも数年内に取り組んで仕上げたいと思っているのは
- Davis, B., Sumara, D., & Luce-Kapler, R. (2015). Engaging minds: Cultures of education and practices of teaching (3rd Ed.). Routledge.
の訳で、これは、原著を読んだ自分の責任として自分の手で教育(方法)学に紹介したい!という文献だ。ただ、この中でも訳すのが最も難しい文献になるだろうと思う。
いま現在、全く別の文献の翻訳チームに加わっているため、すぐにというわけにはいかないだろうが、出版社であれ共訳者であれ、いずれか「一緒に訳しましょう!」という素敵な人がいたらぜひ。サバティカルがもらえたら、どこかの大学でどっぷり勉強の日々という願望も半分ぐらいはあるが、どこにもいかずせっせと翻訳の日々も個人的にはアリだ。