[雑感113] Japanを単数で受けるか複数で受けるか
ゼミ生有志に、参加希望のあった他大学の教員・学生をオンラインで加えて、
- Huddleston, R. D., Pullum, G. K., & Reynolds, B. (2021). A student’s introduction to English grammar. Cambridge University Press.
の読書会を開催している。
第1章で、英語のバラエティー(変異)について説明する中で、本書で標準英語(Standard English)と呼ぶものの中の、いわゆるイギリス英語(BrE、英国、南洋州、南アフリカの方言)とアメリカ英語(AmE、カナダとアメリカの方言)の違いに軽く言及がある。
その中で興味を引くのが、企業や政府、チームのような共通の目的を持つ人々の集団を指す単数名詞を、大半のBrEの話し手は複数形として扱うという事実だ(p. 5)。BrEでは、例えばEngland are collapsingという見出しは、英国のクリケット・チームのダメダメなパフォーマンスなどに用いられるのに対して、England is collapsingと言えば(地理的な意味での)前代未聞の大災害を表すことになる(例文の下線は引用者)。一方、AmEの話し手はEngland are …のほうを文法的ではないとみなす傾向がある、というのが両変異の違いだ。
今朝、読書会に参加するメンバーから、ホットな、別の実例が届いた。
そう、サッカーW杯のスペイン対日本の記事である。記事のタイトルだけではわからないが、本文は”Japan were awarded a remarkable winning goal by VAR in their dramatic World Cup win over Spain.”と始まる(下線は引用者)。確かに複数形で受けている。
集合名詞を単数で受けるか複数で受けるかという話は、例えばThe family are all three.という具合に、教師向けの文法書として(特に海外では)定評のあるThe grammar book: Form, meaning, and use for English language teachers (Larsen-Freeman & Celce-Murcia, 2015 [第3版])などでも取り上げられている。
こちらは変異の違いには触れず、「意味によって、一つのまとまりとみなされている場合は単数として受け、個々のメンバーからなると感じられている場合は複数として受ける」と説明されている。例えば、Our school team has won all its games.(全体としてのチーム) vs. Our school team have won all their games.(メンバー個々人)というように(pp. 63−64)。この延長で、上のEnglandやJapanが説明できないわけではない(上の記事のJapanは、急に冷え込んだこの島国を指しているのではなく、[堂々と称賛されるべき]一人ひとりの選手からなるサッカー日本代表チームのことを指している)が、The grammar bookの例は結局どちらも「自分たちの学校のチーム」と訳されてしまうわけで、違いは捉えにくい。
かつてはこういう場合に他の文法書を漁って類例を探していたわけだが、こうしてすぐに実例が採取できるのはありがたいことだ。しかもホット・ニュースと結びついた形で。文法(指導)、楽しいよ(at least to me)。