[レビュー073] 鹿島『思考の技術論』
入院を利用した読書とも言えるが、574ページ。卒論から研究者人生まで、という感じでお腹いっぱいだ。
- 鹿島 茂 (2023).『思考の技術論: 自分の頭で「正しく考える」』平凡社.
前半、デカルト『方法序説』の4原則の詳細な読み解きから始まり、コンディヤックの『論理学』が並置され、なかなか読みあぐねるかもしれない。しかし、そこをくぐり抜けると抜群に面白く、前半の検討が必要なものだったことも実感できる。特に二元論(的思考)の有り難みからy = ax の一次関数までが「正しく考える」方法としてつなげて整理できることに感動すら覚えた。第10、11章までを学生が読めば、卒論の問題設定や考察に大いに役立つことだろう。
具体例の理解に背景知識も求められる第12章以降はやや難易度が高い。しかし、マルク・ブロックの『比較史の方法』から入り、家族人類学の系譜を経て、エマニュエル・トッドの仕事を詳しく解説し、吉本隆明の「共同幻想論」のエッセンスを取り出した上で、(吉本がそれをどう活用したかを例に)ヘーゲル的弁証法を論じる第19章までは本書の白眉であり、(第8章で既に『『パサージュ論』熟読玩味』のエッセンスが登場するが)著者のこれまでの著作のエッセンスが惜しみなく開陳されている。個人的には、第15章までのロジックが流れれば修士課程は合格、第16章から第19章までが博士課程から研究者として独り立ちするぐらいまでの段階で持てればうれしい見晴らし、という感覚を持った。
第23〜25章はそれまでの流れと性格が異なり、学生時代に論理学の文献に浸りすぎたせいかカットしてもいいように思えたが、ビジネスの戦略ストーリーに研究テーマの選択や論文の書き方を重ねる第20〜22章も研究者にとってはすこぶる示唆的で、科研等のプロジェクトについて自身に重ねながら読んでしまった。
とまとめて感じるのが、他の誰にこれが書ける?!という驚嘆と畏怖の念。贅沢な574ページだ。