[雑感136] 2023年度をふり返る
2023年度にした仕事について。
原稿はぼちぼち。
- Mizumoto, A., & Watari, Y. (2023). Identifying key grammatical errors of Japanese English as a foreign language learners in a learner corpus: Toward focused grammar instruction with data-driven learning. Asia Pacific Journal of Corpus Research, 4(1), 25-42. [OSF Preprints]
- 亘理 陽一 (2024).「学校英語教育の目的論を再考する: 社会的環境と構成的発達段階の視点から」『中部地区英語教育学会紀要』53, 89−94.
- 亘理 陽一 (印刷中).「スマート・イナフ・エデュケーションは可能か: 教育DXの教育方法学的検討」『日本教育法学会年報』53, 2−11.
Mizumoto & Watari (2023)は水本先生におんぶに抱っこ。でもデータを見ながらあり得る文法指導について考えたり議論したりするのは楽しい。また何かできるといいな。残りの2つは、今更ながら「発表したなら論文化しないとな」と発奮して下記の2つの発表内容を論文化たもの。目的論もテクノロジー関係も自分の中ではこれでひと区切り。
- 亘理陽一 (2023).「リクツで納得!学校英文法の『文法』11: Get a(n) (IN)DEFINITE answer!」『TEN』51, 6.
- 亘理陽一 (2023).「リクツで納得!学校英文法の『文法』12: 代わりは効かない代名詞」『TEN』53, 11.
- 亘理陽一 (2023).「リクツで納得!学校英文法の『文法』13: 見えぬけれどもzero冠詞があるんだよ」『TEN』52, 11.
こちらは平常運転だが、『TEN』で最初に読むという声もちらほらいただいて励まされる。Maroon 5というカードをついに切ってしまって、だんだん追い詰められている気がしないでもない。
- 亘理陽一 (2023).「書評『先生が足りない』』『英語教育』2023年9月号, 77.
- 亘理陽一 (2024).「PISA2022から英語教育が考えるべきこと』『英語教育』2024年4月号, 60−61.
氏岡さんの『先生が足りない』の書評は、旧Twitterでつぶやいたら編集部から書評依頼が来たという珍しいケース(ちゃんと『英語教育』の読者層を意識して書いた)。最近のPISA2022についての記事も、「この件についてお前が何を考えているのか興味があるぞ」と依頼をいただいた特別記事。読んだ方からいくつか反応をいただいて嬉しい。
コロナ禍からの復帰の象徴として、発表は多少気張った。中部地区英語教育学会は2015年の和歌山大会以来のシンポジウムで、オンライン開催ではあったが、森住衛先生・山田優先生と対バンという貴重な経験をさせてもらったし、日本教育法学会に初参加させてもらって普段あまり接点のない先生方と議論することができたのも得難い経験となった。
さらに、バーミンガムで開催されたEuroSLA 32に参加した。採択率が低いということで2本出したら2本とも通った次第。結構人も来てくれてまずまずの発表だったが、私が筆頭のほうは回顧に基づくデータで授業(の成果や課題)について量的に語ることの限界を示しているような感じでなかなか苦しい。森田さんが筆頭のほうはとてもおもしろいのだが、こちらを論文化できるかどうかは共著者次第。
- Watari, Y., Morita, M., & Mizumoto, A. (2023/09/01). “What kind of skill-integrated language activities are effective in improving English proficiency?” EuroSLA 32 (The 32nd Conference of the European Second Language Association, University of Birmingham, UK)
- Morita, M., Watari, Y., & Mizumoto, A. (2023/08/31). “What do you mean by “Do you like learning English?”” EuroSLA 32 (The 32nd Conference of the European Second Language Association, University of Birmingham, UK)
- 亘理 陽一(2023/06/24)「学校に通いながらのサイボーグ: 英語とどう関わっていくか」中部地区英語教育学会(岐阜大会、オンライン)シンポジウム「英語教育目的論再び」
- 亘理 陽一(2023/06/18)「英語教師が言語アセスメントについて知りたいことが知りたい: Kremmel & Harding (2020)に基づくパイロット調査」外国語教育メディア学会関西支部メソドロジー研究部会2023年度第1回研究会(関西大学梅田キャンパス)
- 亘理 陽一(2023/06/04)「スマート・イナフ・エデュケーションは可能か: 教育DXの教育方法学的検討」日本教育法学会第53回定期総会(国士舘大学世田谷キャンパス)第2分科会「学習権保障と教育条件整備」
メソ犬の発表内容の線で、先日WERAの発表が採択されたので、来年度はマンチェスターに行く予定。
単著・共著はやや停滞しているが、翻訳はようやく5月に刊行予定。もう一つもそろそろ。このWebページで71冊の本の紹介またはレビューを書いた(と言っても備忘録的に旧TwitterやFacebook等に投稿したものの転載が多いので、しっかり紹介したものはそれほど多くないが…)。基本的には自分の備忘録で、本を読むことが職能に直結する仕事にたまさか就かせてもらっている恩返しのようなものとしてやっている行動に過ぎないが、それによって上記の書評依頼が来たり、著者と直接やり取りする機会があったり、伊藤たかね先生の本紹介がバズったり、ずいぶん面白い副産物をいただいているなあと思う。
授業は基本的に昨年度と同様。
- 英語科教育法Ⅰ (3年次以降)
- 英語科教育法Ⅱ (2、3年次以降)
- 英語科単元構成論 (3、4年次以降)
- 英語学・英語教育演習Ⅰ・Ⅱ(英語科教育学ゼミ) (3年次)
- 教育実習 [事前・事後指導] (4年次)
- 卒業研究指導(4年次)
- 英文法読書会
昨年と異なり、春学期のゼミは(静岡大学のゼミで2020年に読んだ)『教育的思考のトレーニング』を読んだ。全員が教職課程をとっているわけではないので文献選びには迷いもあったが、だからこそという感じの読み深め方や議論の仕方はとても面白かった(学生たちにも印象深く刻まれたようだ)。
ついに教育実習も始まり、名古屋市・愛知県の学校の他、今年度は宇都宮市まで行った。研究授業後、管理職の先生との話が盛り上がり、予定の新幹線の時間が迫っていて、ろくに味わいもせず宇都宮みんみんの餃子を5分でかっこんだのも良い思い出である。
そして1期生がついに卒業を迎えたが、学科の卒業研究ポスター発表会で優秀賞を取ったゼミ生に限らず、大変になることが分かっていても自分がやりたいことを曲げず、データ収集や分析・執筆に汗かきベソかき、それぞれに良い卒論を仕上げてくれた。来年度の4年生もぜひこの背中を追っかけてほしい。
読書会は春休み終わりまでに25回を開催し、第41回の温泉合宿を挙行してグランドフィナーレ。メンバーの半分以上が卒業ということで、4月からは仕切り直して、同僚の大滝宏一さんと大滝さんのゼミ生と私のゼミ生とで
- Ionin, T., & Montrul, S. (2023). Second language acquisition. Cambridge University Press.
を読む。来年度から大学院の授業も始まるので、毎週英語の文献に追われる予定(好きでやっていることだ)。
学内委員のことは書いても仕方がないが、今年度から学部の留学WGのメンバーに加わった関係で、11月にシカゴとトロントの留学拠点視察業務を担当した。来年度はどうなるかわからないが、朝から晩までの日程をこなし、シカゴでは最後の2時間半ディレクターとサシで食事して、お世辞だとしても「あなたは話しやす過ぎて、一晩中行ける。話したスタッフも口々に良いと言っていた。またすぐ来てよ」と言ってもらえたから、視察の仕事としてはよくやったほうだろう(トロントでも「帰りの飛行機逃すまで隠れて、このままトロントにいなよ」と励まされた)。学会参加とは違う形で、英語の幅を広げてもらった。
社会貢献活動、あるいは実践研究は、昨年度と同様の
- 三重県総合教育センター授業づくり(高校英語)研修講師・公開授業助言者、および高校英語基礎研修助言者
- 静岡県総合教育センター 令和5年度「新時代に対応した英語指導力向上サポート研修」講師
- 静岡県教職員組合第73次教育研究静岡県集会 共同研究者
- 静岡大学教育学部附属浜松小中学校 校内授業研究会 助言者、および研究発表会パネリスト
に加え、
- 文部科学省・国立教育政策研究所「小・中・高等学校を通じた英語教育強化事業企画評価委員」
- 文部科学省初等中等教育局教育課程課外国語教育推進室「外国語教育アドバイザー」
を務めた。文科省・国研の委員は昨年度から務めていたものの、年度が変わっても委員の情報がWebにあがったりもせず、黒づくめの組織扱いなのかな?と思っていて、たまたま機会があった時に聞いてみたら全然内緒じゃなかった次第。錚々たる顔ぶれの末席を汚しているに過ぎないのだが。
静岡県のオンライン研修は、今年は高校だけでなく、小中の先生が混ざる回もあり、6回を通じて先生方の様々な相談を聞かせてもらった。附属浜松小中学校も約2か月おきに6回訪問。
三重県も集合・個別のオンラインの研修を重ねつつ、四日市商業高校・津高校・白山高校・飯野高校に、今年度も英語授業PR大使に任命してもらった学生と訪問することができた。津で開催された実践報告会の終了後、初対面のある若い先生が、拙共編著『高校英語授業を知的にしたい』を持って話しかけてくれた。そこに書かれた私のサインを見せてくれ、教頭先生から「ぜひこれを読むといい」と貸してもらい、この実践報告会で会えるから行っておいでと送り出されたという。学校名を聞いてああ!と気づいた、その教頭先生とは、全英連三重大会の際に深く関わった先生である。同大会で助言者を務めた別の先生とこの実践報告会で久々に再会できたのも非常に嬉しかったが、若い先生に『高校英語授業を知的にしたい』を託す姿を想像すると、なんともエモく、なんとも有難いことだと思う。静岡県教委との仕事はもう10年だし、三重県教委とももう7、8年になる。思えばずいぶん遠くへ来たものだ。それでも、三重県の高校でこれまで直接関わったのはまだ15校に過ぎず、まだまだだなと思う。
これ以外に上記の外国語教育アドバイザーとして高知県の中高を訪問させてもらった。来年度も多くの授業を観に行けるといいのだが。
- 英語授業を語る会・静岡
は記念すべき50回目を迎え、今年も静岡で対面開催が実現できた。年間を通じて10回開催。その他、
- (財)ラボ国際交流センター・東京言語研究所「教師のためのことばセミナー」
で川原繁人さんと対バンさせてもらったり、ご近所ながらご近所であるが故に勤務先的にはあまり喜ばれないであろう
- 南山大学外国語学部FD講師
を務めたり、非常に楽しい経験となった。
その他、検定教科書の編集委員として
- 三省堂 中学校「英語」検定教科書New Crown English Series
- 桐原書店 高等学校「英語コミュニケーション」検定教科書Heartening Series
はこれまで通り。学会運営等も昨年度と同様だが、恐れ多くも
- 日本教育学会研究推進委員
が加わった。
それ以外にも仕事は少しずつ増えるばかりで、減らないのがつらいところだ。心身を気遣いつつも、忙しいうちが華と自分に言い聞かせて2024年度も走る。