[レビュー095] 佐藤『リサーチ・クエスチョンとは何か?』
- 佐藤 郁哉 (2024).『リサーチ・クエスチョンとは何か?』筑摩書房.
フィールドワークや質的データ分析を学んだ者なら知らぬ者はいないであろう有名な著者だが、阿部幸大『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』(光文社、2024年)と比べると、本書の魅力はいまひとつというところ。アルヴェッソン&サンドバーグ(2023)を訳して刺激を受けたという(上に、早くもこの翻訳の改訂版が刊行されたらしい)が、以前書いたように、こちらも私にとっては味わいはそこそこ。
アルヴェッソン&サンドバーグ(2023)によるギャップ・スポッティング的アプローチの支配性に対するツッコミがそれなりにインパクトを持つのと同様、「リサーチ・クエスチョン」の定義が曖昧であるという指摘は重要であるが、それに対して見晴らしがすこぶるよくなる提案がされているようには私には思えなかった。学生・院生にとっては本書のような形でIMRADを解剖するよりは、まず『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』を通じて、論文に必要な「アーギュメント」とは何かを知り、それを鍛えるほうが重要であろう。
とは言え、これは私のこれまでの経験に由来するものかもしれない。包括性(総論的か各論的か)と研究作業における位置づけ(結果の報告が問われているか、経緯の報告が問われているか)による分類で、自身のこれまでの研究や今後の研究計画がすっきり整理される人もいるだろう。
私にとって本書があまり輝かないのは、上記の通り、卒論・修論指導ということで言えば『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』の方をまずは薦めたいと思うからであり、その先の研究方法論として私にとって特に目新しい知見はないからである。包括性の軸に関わるWhat(記述)/Why(説明)の問いといった区別は、拙共著『英語教育のエビデンス』で論じてきた上に、筒井淳也『社会学: 「非サイエンス」的な知の居場所』(岩波書店、2021年)を通じてさらに掘り下げて整理済みであり、それ以前から田中一『研究過程論』(北海道大学図書刊行会、1988年)などを通じてよくよく考えてきた。
「こうした先行の文献よりビビッドな事例や、それを通じた優れた見通しを本書が与えてくれているかと言えばそうでもない」というのが私の感想だが(博士課程の頃に出会っていたら印象はだいぶ違っただろう)、さりとてこうした文献を通じて得られた整理と矛盾する記述があるわけではなく、私のような方法論厨でない人にとって、手に取りやすい研究方法論の新書が上梓されたことは素直に喜んでいいと思われる。
でも特に読みやすいというわけでもないんだよね、佐藤さんの文章って。