レビュー
[本190] 青山・古野・サトウ(編)『学習マッピング』
- 青山 征彦・古野 公紀・サトウ タツヤ(編) (2024).『学習マッピング: 動物の行動から人間の社会文化まで』新曜社.
個人的にはかなり胸熱な文献(こういう俯瞰が大好き)で、今後、たびたび参照することになるだろう。
学習を、個人と集団(コミュニティ)、そして潜在(学習の結果が知識のように目に見えないもの)と顕在(学習の結果が行動のように見える形で現れるもの)の2軸で整理する。「熟達」を原点の位置に置き、4象限にはそれぞれ、知識の変容(個人・潜在)、行動の変容(個人・顕在)、価値の変容(コミュニティ・顕在)、共同体の変容(コミュニティ・潜在)というラベルが貼られている。
これによって、学問領域を超えて、エビングハウスの記憶研究や自己調整学習から、正統的周辺参加や組織的知識創造理論までがカバーされている。このマッピングを肴にいろんな人と酒が呑めそうな気さえしてくる。第1章には、行動主義の流れから大規模言語モデルにおける学習まで、学習研究の歴史がコンパクトにまとめられている。第6章には学校教育における学習とそれ以外の学習について取り上げられており、学校教育を相対化する契機も含んでいる。こうして紹介してみると、至れり尽くせりの感がある。
さらに、上記のマッピングに2本の対角線を引くことによって、知識の変容と価値の変容を結ぶ線を、学習の対象が知識(自己)から実践(文化)へと変化していく軸と捉え、行動の変容と共同体の変容を結ぶ線を、学習が生じる時間を「現況(適応)」から「未来(投企)」へと変化していく軸と捉えている。本書を通じて、私の関心が明確にコミュニティ寄りの「価値の変容」や「共同体の変容」にあることが分かり、「(個人の知識の変容に関心がある)第二言語習得研究者の多くとはそりゃ話が合わんわな」と実感する。
watari
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