[本108] 三木『会話を哲学する』
尻上がりに面白くなってきて、第3章の解説は特に良いと思ったが、著者は言語哲学が専門で語用論研究者というわけではないのだけれど、専門的には、コミュニケーション/マニピュレーションと、発話行為論や関連性理論との異動をどう整理しているのか示してほしかったところ。
- 三木 那由他 (2022).『会話を哲学する: コミュニケーションとマニピュレーション』光文社.
発語内効果と発語媒介効果に対応するように見えてどうも違う。グライスのコミュニケーション観の批判の上に立っているのだが、新グライス派の議論がわずかに登場する程度で、関連性理論には(巻末の文献案内も含めて)全く触れられない。
全体を通じて、取り上げているどのマンガや小説、映画に対しても敬意溢れる扱いをしていて、作品の紹介・分析はやわらかくも襞に触れているのが非常に良いので、そういうものとして読むと良いのかも。高橋留美子作品の味はよく伝わる。
という感想の一部をツイートしたら三木さんから反応があって、やり取りしたので以下に引用しておく。
コミュニケーションを扱うならコミットメントベースで、意図をベースにしたものは話し手による聞き手の操作に関する話として整理するのがよさそう、というのがいまのところの立場です。
— 三木 那由他 (@nayuta_miki) September 3, 2022
新グライス派の議論には多少触れていたので、挙げている例のコミュニケーション/マニピュレーションに対する関連性理論や、他の新グライス派(Hornとか)の分析をどう捉えるのかな?と思って拝読した次第です。
— wtrych (@wtrych) September 3, 2022
とはいえ、私自身まだ語用論のもっと具体的な理論とか成果とかをどう整理するかしっかりまとまっていないところはあって、Geurtsさんなどのコミットメントベース語用論を参照したりしながら考えていきたいなと思ってます。
— 三木 那由他 (@nayuta_miki) September 3, 2022