[雑感088][授業後020] 中級英語Bの振り返り
毎週Facebookに投稿していた振り返り。後期の担当授業についてもまとめておく。この授業用に作成し共有したプレイリストはこちら:
第1回: Ariana Grande [10/2]
教養英語の授業で、今年の1年生と初めての対面。最後の英語授業は後期でTOEICのくびきからも逃れたので、テキストも使わずかなり自由に組んだ。毎回取り上げるアーティストについて私が選曲した5〜6曲を聴いて、気に入った1曲について話す準備をしてくることが課題で、担当グループはその中で課題曲として私が指定したものか自分たちで紹介したいと思った曲を解説し、最後はみんなでそれを歌うという、私自身が受けたい構成。
100人以上サイズの教室に広がって、まだまだカタさはあるが、「わー大学の授業って感じ」というのは味わってもらえたはず。まあ初回の授業でスベったことはないし、初回でアタリの授業と思ってもらえれば後がずいぶんやりやすくなるので、その授業の「さわり」をつかんでもらうことに結構力を注ぐのはいつものこと。
感想を見ると、やっぱり交流が嬉しかったようで、もっと積極性を発揮したいとかもっと上手に歌いたいなどのニーズも引き出せたようだ。授業が終わっても、全然動かずグループで話し続けたり感想入力したりしてて、ほんわかした。さあて、どういう授業に仕上がっていくかな。
Warm-upはAriana Grandeの”Break Free”で、次週以降のように課題曲を挙げるならということで示したのは、“Piano,” “Problem,” “Into You,” “no tears left to cry,” “thank u, next.”
第2回: The Chainsmokers [10/9]
雨で心配したが、学生の集まりも早く、雰囲気は上々。Warm-upの曲鑑賞を通じて歌詞を味わう観点や技法を提供し、グループ内で親睦を深めてもらうための活動を挟んで、ディスカッションへ。
ディスカッションのための今週の課題曲は、The Chainsmokersの5曲: “Closer,” “Paris,” “This Feeling,” “P.S. I Hope You’re Happy,” “Call You Mine” (Something Just Like Thisはwarm-upで使用)。お気に入りは、耳にしたことがありそうなCloserに寄るかなと思っていたが、Call You Mine以外はそれぞれに4分の1〜3分の1がいて、見出しているポイントも様々で興味深かった。
初回がリスニングと歌う活動のデモンストレーション、今日がスピーキングとディスカッション活動のデモンストレーションのねらいがあったので、モデレーター役の練習も兼ね、話すステップをいくつかに区切り、段階的に仕上げていく。自分の好きなアーティストと比較したりしながら説明するといった方略も引き出しつつ、最後にそこまでの試行を束ねて、自らの評価に基づくThe Chainsmokersの紹介を話せるように。初めてで、伸びしろと手応えもたっぷり。熱気を感じて慌ててさらに換気したほど。
感想を見ると、「好きな曲ばかりで、本当はもっと話したい気持ちが凄い」、「今日以上に事前に歌詞を味わってから授業に参加したい」と複数寄せられているので、こうなればしめたものだ。君ら、どんどんハマって、ますます楽しいぜ。
例年のこのコマの授業と違っておもしろいのは、先週も今週も、授業が終わってかなりの数が教室に残ること。昼前の授業で、しかも私は90分目一杯、内容溢れてちょっとハミ出しがち教員なので、去年までなら、わあ食堂が混んじゃうぞと、さーっと退室していくのだが、前期の間にそういう静大生しぐさを習得しなかったからかなあ、と思ったりする。次回から始まるグループ担当についてドースルドースルと話し合う学生に「大学生してるねえ」と声をかけたら、「ふひーw」との返事。少なくとも私の関わる半径5mはすべからくこういう笑顔にしていきたいもの。
第3回: Katy Perry [10/16]
Warm-upは別の授業でも初回でよく使うFirework。ディスカッションのための課題曲は、”I Kissed a Girl,” “Part Of Me,” “Act My Age,” “Never Really Over,” “What Makes A Woman”、担当グループに解説・歌唱してもらう一曲は”Teenage Dream”というKaty Perry特集。
学生の好奇心が刺激されているのか、英語の学習法から言語的・文化的内容まで、任意で寄せられる質問・疑問の量がかつてないほど多く(受講者の約1/3)、言いたかったけど言えなかったこともわんさか。丁寧に答えているだけで授業が終わってしまいそうなので、さっと答えられるもの以外は授業用のWebページに回して、それでも言いたかったけど言えなかったことを考える時間は確保。曲に対する自身の評価を言い表すための手持ちの表現がまだまだ不足しているということはあるにせよ、一通りではない言い方をいろいろ考える面白さに目覚めてくれたようだ。「考えさせられる歌詞」とか「しっとりした曲」、「片思い」などなど。ここの盛り上がりはそこまで意図していなかったので嬉しい悲鳴。
今日の課題曲は、彼女の曲に通底するモチーフを考えてもらうための選曲なのだが、お気に入りがちゃんと分かれて興味深い。英語のディスカッションはしっかり事前に準備してきて、という感じの学生が多いが(後のコーナーの担当グループ以外は敢えて曲を聴いてるだけでもなんとかなっちゃう授業にしているのに、こうして調べて書いて備えてくるところが黄金だなと思うものの)、説明ややり取りで手応えを得るのも早い。初回のアリアナちゃんも効いてか「女性の強さ・プライド」と言った意見が複数出た上に、「メロディはそう激しくないのに歌詞のメッセージは強い」、「彼女の声は力強く、(恋の)迷いを歌っても動揺を感じさせない」といった感想まで(うまく英語にできないものは私が拾って一緒に英語にしていった)。すごいな。
初めての担当グループの授業も作り込まれていて感心した。内容についても発音についても解説のポイントがよくおさえられていた。調べる過程でgleeを見つけてハマったらしく、「この曲を選曲してくれてありがとう」とまで。stress-timedをつかみやすい曲で、いくつかの子音の発音を意識しやすいと思って選んでいるのだが、こういう化学反応があるから授業はやめられないね。
第4回: Charlie Puth [10/23]
ディスカッションの課題曲は、Charlie Puthの5曲: “See You Again,” “We Don’t Talk Anymore,” “The Way I Am,” “Attention,” “How Long.” 担当グループに解説・歌唱指導してもらう一曲は”One Call Away.”
授業を通じて洋楽を聴くようになった、洋楽ないしは誰々が好きになったという感想はこれまでの授業でも必ずもらってきたが、ここまで洋楽どっぷりでお届けすると、アーティストへの関心も曲への関心も一段と深まっているのがわかる。We Don’t Talk Anymoreは文法的解析に向いていて、他の曲も時制に注目して見てみると歌詞のトーンが掴みやすくなるという話も、そういう構えができた今のこのクラスなら楽しんでもらえる。歌詞に表現されたゲスさやエモさを私がキャッキャ解説するからだが、How Longの現在完了進行形の味も、続きの展開を考える活動もキャッキャ盛り上がってくれた。
One Call Awayは、歌詞のメッセージももちろんあるにせよ、どちらかと言えば彼の曲の中での歌いやすさを考慮して選んでいる。どういう授業にするかは担当グループに任せていて、始まる前は緊張でお腹痛いとこぼしていたが、おさえるべきポイントも外さず、COVID-19による今の状況も重ね合わせてappreciateした解釈を置いてくれて、グッときた。授業前に他の授業の課題にせっせと取り組んでいた別の学生に「課題多いですか?」と訊くと、「いっぱいで大変です。でも今日の曲が自分に向けられてるみたいで励まされたので、がんばれます」と。他の授業の先生にお礼してもらってもいいんじゃなかろうか。全員にApple Musicのライセンス買ってあげてください。
第5回: Carly Rae Jepsen [10/30]
ディスカッションの課題曲はCarly Rae Jepsenの5曲: “Beautiful,” “Your Type,” “I Really Like You,” “Cut to the Feeling,” “Now That I Found You.” MVも手伝ってI Really Like YouとNow That I Found Youに人気が集中したようだ。
Warm-upでLet‘s Get Lostを聴き、状況と、タイトルで間接的に表現された彼女の本心をダイレクトに表現してみる。課題曲もその視点で、直接的に伝えたいこととの距離から、歌詞に表現された恋の不安や迷いや後悔、自信のなさを味わうのがねらいの、「ポケットからたくさんのキュンを取り出す」授業。感想にはキュンが溢れて楽しかったという声がいくつも見られたが、表面的にはそうでもなくて、もうちょっと関係深まってからにすべきだったかとも思う。かと言って、リアルにドロドロやりたいわけでもないので、このくらいでいい気もする。
担当グループに解説・歌唱指導してもらったのは、”Call Me Maybe.” 日本でもお馴染みとはいえ、泉に願い→Pennies and dimesであるとか、”I looked to you as it fell”、副詞のbadといった解説向きの部分もあって、担当グループは丁寧にポイントを押さえた解説をしてくれた。音程的に特に女性は楽しく歌えたようだ。担当グループの授業内容について具体的な指示は何もしていないし、相談がない限り事前チェックもしないのだが、これまでの授業の内容や、前半部分で伝えている鑑賞の視点が取り込まれていて授業者としては毎回、嬉しい驚き。唯一、私は立って歌わせたりはしないほうなのだが、なぜかみんなLet’s stand up!となる。中高の名残かな。
第6回: Ed Sheeran [11/6]
Warm-upはEd Sheeranの”The A Team”で、タイトルからイメージするものを訊く。“The best members”などの解釈が出てくるのは予想通り。歌詞をざっと眺めた後、MVで確認するとショックを受けた表情が並ぶ。今日のテーマは「タイトルは期待を裏切ることがある(だから効果的となる)」。映画『イエスタデイ』の”The Long and Winding Road”にEdが打ちのめされるシーンを使おうとも思ったが、彼へのビートルズの影響はまたいずれ。
タイトルが象徴するものという観点で選んだ課題曲は、”Lego House,” “Small Bump,” “Photograph,” “Castle on the Hill,” “Beautiful People.” モデレーターが一周したのでグループをシャッフルした新鮮さもあるが、お気に入りを語る時点でかつてないほどディスカッションが盛り上がっていて、次に行くのが惜しいくらい。やはりCastle on the Hillが人気ではあったが、どの曲もお気に入りに選ばれていて、それぞれ思い入れを熱く語ってくれた。それを英語で伝えられたという感想が多くて嬉しい。タイトルが象徴するものと各曲のメッセージがポジティブなものかネガティブなものかどちらとも言えないかを分析的に議論・共有。自分の意見も出せるようになってきた。とにかく楽しい。
担当グループに解説・歌唱指導してもらったのは、”Thinking Out Loud.” イチャイチャすんなや!とツッ込みたくなるぐらい甘々な歌詞を、淡々と、しかも隙なく解説してくれるから非常に面白かった。23歳の時と変わらず…と歌う彼らは23歳もまだずいぶん先の1年生。教育学部の学生ばかりではないし、指導技術の腕を求めたりはしていないが、毎回、スライドの作り込みと事前の調べが念入りで本当に感心する。そしてさらに、授業構成についても工夫を考え始め、こんなことをしてもいいかと尋ねるグループが現れ出した。こうなればしめたもので、「授業は君たちのものだ、大いに暴れなさい」という感じ。
彼らの予想以上の熱心な参加は授業者冥利に尽きるけども、ああそうか今年は大学祭モードが無いんだなと気づいてちょっと切なくもなる。来年以降のステージで、F研でもアカペラサークルでもいいから、この授業で気に入った洋楽をぜひ歌ってほしいもの。
第7回: Taylor Swift [11/20]
大学祭の休みを挟んで2週ぶりの中級英語。Taylor Swiftは好きな者も多かったようで、課題曲の”Sparks Fly,” “Superman,” “I Knew You Were Trouble,” “We Are Never Ever Getting Back Together,” “Cornelia Street,” “betty”の6曲を聴き込んで、ディスカッションの準備をしっかりしてきてくれたようだ。
やっぱりネバーエバーに寄るのかと思ったら、Supermanが人気で、どの曲にも支持者がいて選んだ甲斐がある。シャッフルの結果、We Are Never Ever Getting Back Togetherで意気投合して盛り上がる男子だけのグループができて、歌詞の内容とのギャップがエモかったし、All Too Wellも入れて欲しかったなどとディープな感想も寄せられて授業が洋楽愛好サークルとして完成しつつある。
Warm-upは、”The Story of Us”を聴いて、対訳の断片を話の順番に並べる活動。キーワードをキャッチできるかを問い、彼女の曲の特徴である出来事の描写を重ねてストーリーを展開する歌詞に着目させるのがねらい。課題曲もそういう選曲だ。ディスカッションでは、歌詞を参照しつつ好きな曲のストーリーを2分で説明してもらった。誰もそんなことはできないという反応を見せないのが良い。
担当グループに解説・歌唱指導してもらったのは、定番の”You Belong With Me.” どの授業もそうだが、グループ担当で授業の一部を任せるだけで、毎回質が向上していく。あれこれ伝えるよりもお互いのパフォーマンスがモデルとなり、それに触発された後のグループに工夫を促し、授業での伝達の吸収も多くする。解説の丁寧さもさることながら、ディスカッションを仕掛けたり、つつがなく終わってもまだ満足していない様子に、ゼミにスカウトしたくなった。そして曲が発表された2週後の担当グループは早くも残って打ち合わせ。
第8回: Justin Bieber [11/27]
中級英語は、Justin Bieberの曲を多面的に鑑賞し、彼のイメージを変える90分。かつてのMichael Jacksonと同様、彼の日本での受け止められ方や評価はどちらかと言えば今のところ不遇なものであると思う。本人が好むと好まざるとにかかわらず、私小説的な性格を背負わされた初期YouTuberは、もっとアーティスト性で評価されて良い。個人的には、他アーティスト名義も含め最近の楽曲が特に光り、むしろこれからに期待している。
Warm-upは、彼の印象を話し合った後、”Lonely”を聴いて、若くしてスターとなった者の孤独を味わう。学生たちの多くは少年の頃の曲を知らないので、これだけでも結構印象的だ。
課題曲は、”What Do You Mean?,” “Love Yourself,” “Cold Water,” “Friends,” “Holy.” 人気はキレイに5分して、そのディスカッションだけでもかなり盛り上がっていたが、歌詞を手元に置いて、ヒドいこと言うねえ、これはカッコ悪いな〜という部分と、カッコいいこと言うねえ、ここはステキという部分を吟味する。曲調に騙されずLove Youselfのそこまで言うかという歌詞を味わうためだが、色々意見が出てCold Waterのカッコよさも際立った。Friendsの、曲はとてもカッコいいのに、男としてめっちゃカッコ悪いことをカッコつけて言っているのも味わいどころ。
担当グループに解説・歌唱指導してもらったのは、”10,000 Hours.” 歌いこなすのはそれほど容易ではない曲だが、グループの授業テンポも良く、比較的つかまえやすいカナダ英語の特徴を押さえて、MVのイチャイチャを見せつけられたりもしながら、男性陣が引っ張って歌ってくれた。カラオケ行きたいね。
恋愛の歌も多めに取り上げている必然的帰結として、お前は今までどうだったんだ的な質問が寄せられたので、これも背負うべき責任だろうと学生の頃のあるエピソードを英語で話したら、教室全体がかつて無いほど集中してリスニングしていた。おっさんを面白がっていないで、若者たちよ、自ら青春せよ。
第9回: P!NK [12/4]
中級英語は、私と同学年のP!NK姉さんの5曲。Warm-upは、課題曲の一つ”Who Knew”のキーフレーズを解釈して、邦題をつけて売り出すとしたらどういう題にするかを考えた。流れで、”I Need To Be In Love”などの7、80年代の洋楽に付された邦題を紹介すると2000年代生まれが興味津々。自分に置き換えると5、60年代の話で、プレスリーとかチャック・ベリーぐらいの話なのかと思うとゾッとした。
課題曲は、”Who Knew,” “Heartbreak Down,” “Just Give Me a Reason,” “What About Us,” “Can We Pretend.” いつも通りお気に入りについてやり取りしたのち、この授業で今まで紹介した女性アーティストと比べてP!NKの特徴を考える。じゃあ私はテイラーちゃんとの比較担当、というように、それぞれの思い入れが反映されたりしていてよかった。同時にAny singer like P!NK in Japan?というような留学時にありそうなやり取りについても考えてもらった。Superfly, in a more darker side, and more struggling in her lyricsといった意見に頷く顔が多かった。
担当グループに解説・歌唱指導してもらったのは”Perfect.” ラップ部分をどうするか考えずに選曲していたが、彼らから事前にメトロノーム・アプリのインストール指示があり、それとYouTube動画の0.75倍速再生とを使って指導するという見事な捌き。スライドはもちろんのことだが、iPadの操作も全く説明する必要なんてないし、その機器の領有具合と手際の良さに感動してしまった。
第10回: Maroon 5 [12/11]
中級英語はMaroon 5. 私の授業では定番の”She will be loved”をWarm-upに、歌詞を味わう上での文法の機能的側面に目を向けつつ。「先生は、クズっぽい男性の曲と強い女性の曲が好きだ」と看破され、基本的にはそうだろうと思う。I want to make you feel beautifulと言ったすぐそばから、It’s compromise that moves us alongと言うのが人というもの。
課題曲は、”Sunday Morning,” “Misery,” “Maps,” “Payphone,” “Sugar,” “Memories.” お気に入りについてやり取りして、それぞれのタイトルが表すものや、歌詞の中のメタファーを取り出し、メッセージの理解を深めてもらった。Payphoneになるかと思ったらSugarが一番人気だったが、Memoriesについてかなり調べ込んで来てくれた者もいてありがたい。一方で、Songs About Janeは棺桶に一緒に入れて欲しいアルバムだという話をしたが、そもそもこの世代にはCD的な意味でのアルバムという感覚がないんだろうなと感じた。
担当グループに解説・歌唱指導してもらったのは、”Won’t Go Home Without You.” 解説の「The taste of her breath …で最初、『え、気持ち悪ッ』ってなっちゃったんですけど」というので思わず笑ってしまった。「といき」と訳すことにしたらしいが、漢字で書くと「吐息」だから実はあまり違いはない気もする。ストーカー的だと評しながら”Every Breath You Take”にも触れてくれたりして、本当に良い。
ディスカッションしてもらいたい!という担当グループの授業の工夫にも感心する。この二人はどういう結末を迎えるかという担当グループからのお題に、この人とヨリを戻しても先などないと手厳しい者と、めめしい男性もかわいいと主張する者と、その狭間でうろたえる者とが青春の密な空気を作り出していた。それを微笑ましく眺めながら常時換気するだけのお仕事。
第11回: Alicia Keys and Other Female Singers [12/18]
中級英語は、特定のアーティストを掘り下げてきた前回までと異なり、”What It Feels Like for a Girl” (Madonna), “Beautiful” (Christina Aguilera), “Take a Bow” (Rihanna), “If I Were a Boy” (Beyoncé), “Girl On Fire” (Alicia Keys), “Try Everything” (Shakira)の6曲が課題曲。担当グループに解説・歌唱指導してもらったのは、Alicia Keysの”Underdog.”
冒頭にNikeのDream CrazierのCMを観て今日のテーマを掴み、上記の6人のうちの4人が歌詞の中に登場するFifth Harmony (feat. Meghan Trainor)の”Brave, Honest, Beautiful”をWarm-upに、彼女らが背負っているイメージや闘ってきたものについて考える。女性について何が歌われ、男性は、人々はここから何を学ぶべきか。
いつもと違って今日は少数でも刺さる者がいればいいと思ってはいた内容だが、終了後、残って難しい顔をして感想を打ち込む学生と話してみたら、「正直、いまは『カワイイ』の軸に乗っかっているほうが楽なので今日の曲の歌詞のようなことは考えてこなかったが、男女の権利格差の意識やその表現の仕方がなぜこうも違うのか。文化の違いなのか」と言う。こうして一人に刺さったのだからそれで十分なのだが、なるほどなあと思う。社会的な話題は経験が乏しい分、議論が難しくなるというのは中高の先生と話す時によく言っていることだが、そもそも彼女たちの多くには(幸か不幸か)男性優位の社会から押し付けられる理不尽さはアクチュアルな問題としてはまだそれほど顕在化していないのか。私が女性教員だともう少し違った展開や自己開示になったかもしれないが。こういう曲が最も沁みるのはいつぐらいなんだろう?
と社会的話題に振っておいて、最後に「クリスマスを挟んで年明け初回は失恋シーズンだろうということで、失恋ソングを集めました。次回までに浸りましょう」とアナウンスすると教室がいつもの笑いに包まれた(そして先ほど、その課題曲からSam Smithを抜かしていたことに気づき、LMSを通じて「Sam Smithなくして失恋は語れません」という謎の連絡を送った)。あと1グループの担当が残っているが、この授業を含め、学生や事務の協力のおかげで、対面と僅かなハイブリッドで年内の授業を全てを完遂できたので、最悪年明けにオンライン授業を強いられる状況になったとしてもまあ悔いはない。学期末までこのスタイルでいければ本当に御の字だ。
第12回: Michael Bublé and Other Male Singers [1/8]
こんなに冷え込んだ1月8日じゃ半分くらい休んでも不思議じゃない(自分なら休む)と思っていた中級英語。いつも並みに揃ってこちらが驚く。
Warm-upは、Michael Bubléの”Love You Anymore.” 聴く前に、歌詞から抜いた「別れた後にしがちなこと」7つを共感する順に並べ、英語でどう言うか予測を高めながらリスニング。課題曲は失恋特集で、”A Song For You” (Donny Hathaway), “I Miss You” (Boyz II Men), “Home” (Michael Bublé), “Somebody That I Used To Know” (Gotye feat. Kimbra), “When I Was Your Man” (Bruno Mars), “Palace” (Sam Smith), “Someone You Loved” (Lewis Capaldi).
当初の計画からサム・スミスが漏れていて後から足したので7曲になってしまい、ルイス・キャパルディはオマケとした。が、蓋を開けてみるとそれぞれちゃんとお気に入りに挙げるものがいた。A Song For Youはブーブレも歌っていることもあって入れたが、ダニー・ハサウェイ版を気に入ってくれる大学1年生の成熟した感覚、素晴らしい。それぞれの歌詞について共感する部分や理解できない部分をディスカッション。解説してたらおっさんも切なくなった。
担当グループに解説・歌唱指導してもらったのは、Bubléの”Haven’t Met You Yet.” 途中で、日本語タイトルを付けるとしたらどうするかを問いかけたのには感心した。私が紹介するとしたらまさにそうするのだが、彼女たちは自分たちで考えてそういう授業を作ったのだ。授業準備のためにあれこれ検索していたら「素顔の君に」という邦題が出てきて違和感を感じたのがキッカケとのこと。配布資料に誤りを見つけたからと、声をかけてAir Dropで訂正版を即座に配る今日的対応も見事で、全10グループが担当をやり遂げてくれて本当に嬉しい。
第13回: Up-and-coming Female Singers [1/15]
中級英語。Warm-upは、Miley Cyrusの最新曲”Midnight Sky.” 『シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ』を観ていたわけではないが、”Party In the U.s.A.”のイメージでいると随分雰囲気が違う。でも彼女の声に最も合っている。
そんな彼女の来歴やら、この曲のメッセージや曲にまつわるエトセトラに触れつつ、課題曲はもう少し若い世代のHailee Steinfeld (“Most Girls”), Anne-Marie (“2002”), Billie Eilish (“everything i wanted”), Halsey (“You should be sad”), Dua Lipa (“Break My Heart”)を、気に入ったら私のオススメ以外の曲も聞いてきて集合。Billie Eilishに偏る可能性も考えたが、人気は比較的均等に分かれて、ちょっと幼いかなと思っていたHailee Steinfeldが若干優勢なぐらいだった。学生曰く“2002”の内容は西野カナあたりが歌いそうとか、比較したり、各アーティストの特徴を整理したり。
グループ担当は終わったので、取り上げてきた100曲近くを表で概観。実は相当英語を聞いたし、英語歌詞を読んだ。それだけでも十分なのだが、これまで取り上げてきたアーティスト・曲、もしくは好きなアーティスト・曲を紹介する動画を撮ってもらうのが最後の課題なので、それに向けて、まずは軽く話してみて、振り返りながらざっくりプランニング。言いたかったことを次の回で解決する時間を毎回設けてきたおかげで、言えた手応えも増えてきた様子で、自信満々というわけではないにせよ、不安だとか気乗りしないという反応もこのクラスにはない。誰のどれにしようかと迷ったり、本当に誰でもいいんですか?と問う様子を見ていると、真夜中のような道でもここまで走ってきて良かったなと思う。あと2回。
第14回: Michael Jackson [1/22]
中級英語は、Michael Jackson. 課題曲にも含めたが、Warm-upの“Man in the Mirror”でメッセージの味わいポイントをデモ的に示す。リスニング難易度はかなり高いが、ここまで積み重ねてきた慣れとマイケルのパワーで前向きに取り組んでくれる。
課題曲は“Billie Jean,” “Man in the Mirror,” “Black or White,” “Heal the World,” “They Don’t Care About Us,” “You Are Not Alone”の6曲。好みはわりときれいに6等分。この世代は、余計な情報や先入観なしに彼の曲やダンスパフォーマンスに触れていることが多く、素直に楽曲のクオリティの高さやパフォーマーとしての素晴らしさを味わって評価してくれるのでありがたい。Anecdoteを話し出すとキリがないので、Black or Whiteの冒頭や、They Don’t Care About Usに入れられたノイズの解説程度にとどめて、あとはBillie Jeanを例に最終課題の曲紹介のモデルを示すにとどめる(ディスカッション中のBGMではBehind the Maskとかを流したり好みを丸出しにしていたが)。
後半は、Flipgridを導入して、スピーキングの練習。いよいよ次回でフィニッシュ。
第15回: Sia [1/29]
中級英語ラストはオーストラリア出身のSiaを取り上げるということで、同じオーストラリア出身のTones And Iの”Dance Monkey”をWarm-upで紹介し、ある意味でのショック体験というか、多様な英語の発音に出会った際に聞き取る方略を考えながら実践してもらった。
課題曲は“Titanium,” “Wild Ones,” “Chandelier,” “Alive,” “The Greatest,” “Saved My Life”の6曲。想像した以上に聞き込んできてくれて、不思議なくらい均等に好みは分かれた。そりゃやり取りも盛り上がる。これらに共通する「繰り返し」あるいは「連呼」(に耐える彼女の歌唱)の効果と合わせて私が感じてほしかったのは、デヴィッド・ゲッタやフロー・ライダーの曲に「使われている」(あるいは彼らの曲を救っている)時のSiaと、Chandelier以降の彼女の違い。
ということでメインのディスカッションテーマは、MVなどで本人が姿を見せず、顔も出さないことによる効果は何か。ちょっと投げかける程度のつもりだったが、盛り上がって、Greeeenなどが引き合いに出される一方で、それで終わらずSiaの曲に照らしていくつかの解釈がすぐに提示されるのは、ここまで洋楽について多面的にディスカッションを重ねてきた成果であり、とても嬉しい。
最後に、最終課題に向けてFlipgridで試し撮りする活動。予告はしてあったので既にある程度原稿を書いてきた者もいるが、原稿を固めてから撮影しようとするタイプと、まず撮ってみてそれからどうするか考えるタイプに分かれるのが面白い。映りや聞こえを確認して、デリバリーについて多少のフィードバック。2週間後の締め切りまでにどんな動画が出揃うか、楽しみだ。
最後に締め括りの挨拶をしたところで、BGMとして流していたSiaの“Saved My Life”がちょうど始まり、学生も私もなぜか一瞬思わず「おおっ」となる。言語化はしなかったが、この時間や、この授業のお互いの関係を象徴するようで、じんわり余韻の空気の中、みんな黙々と最後のリフレクションを入力していた。
テキストも使わず洋楽のみで構成する英語授業に挑戦し、今の状況で15回の対面授業を走りきった達成感は、これまでに担当したどの授業とも異なる。「英語学習が楽しいと思えた」とか「後期の授業でいちばん面白かった」といった感想は通常営業の範囲だが、私にとって嬉しいのは、「ほとんど聴く機会のなかった洋楽を聴くことが日常の習慣になった」とか「毎日曲を聴いて勉強している」という感想。グッと来た感想をひとつだけ直接引かせてもらえば、「今まで聞き取れない英語の歌に興味を持っていませんでした。マイケル・ジャクソンなんて、聞いたことはありますが、クセのあるモノマネを見て笑っていました。でもこの授業を受けて、そんなことはもうできません。それほど海外の方のメッセージにすごく感動して、元気になれました。日本語では表せないフレーズの入れ方だからこそ響くものがありました。とても人生が豊かになったように思えます」。お世話になってきた洋楽にも恩返しできたと言ってよかろう。
さらに今回とりわけ喜ばしいのは、リスニング力やスピーキング力の向上やその実感を報告する感想が多いことだ。私が特にそれを求めていなくても、彼女たちはTOEICや他の機会でこの授業で取り組んできたことの「効果」を実感してくれたよう。刻苦勉励して英語を勉強させたい派の人たちを逆撫でしそうだけど、「楽しみながらスキルが向上した」って最高じゃない?もちろん厳密な因果関係を示すものではないし、一歩先のレベルに進めば現実の要求はそれほど甘いわけでもないだろうけど、私ぐらいしかやらないような授業をフルスペックで展開した結果の、いかにも私らしい到達。
そして「大学に入ってよかったなと思った」という感想。今年の一年生にそう言ってもらえるのは何にも変えがたい。ああ、楽しかった!