[本056] 須藤『学習と生徒文化の社会学』
締切がもうそろそろの日本教育行政学会の『年報』の原稿が4ページで、昨年の大会で報告した際の要旨が2ページだったので、コロナ禍以前の子どもの実態などの情報を足しておくかと、
- 東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所(編) (2020).『子どもの学びと成長を追う: 2万組の親子パネル調査から』勁草書房.
- 須藤 康介 (2020).『学習と生徒文化の社会学: 質問紙調査から見る教室の世界』みらい.
- 元森 絵里子・南出 和余・高橋 靖幸(編) (2020).『子どもへの視角: 新しい子ども社会研究』新曜社.
- 中村 高康・平沢 和司・荒牧 草平・中澤 渉(編) (2018).『教育と社会階層: ESSM全国調査からみた学歴・学校・格差』東京大学出版会.
- 乾 彰夫・本田 由紀・中村 高康(編) (2017).『危機のなかの若者たち: 教育とキャリアに関する5年間の追跡調査』東京大学出版会.
をざーっと一気に読んだ。原稿の内容とは直接関係ないところで、
- 須藤 康介 (2020).『学習と生徒文化の社会学: 質問紙調査から見る教室の世界』みらい.
がとても良かった。
議論すべき点が一切ないというわけではもちろんない(し著者も批判なしにただ受容されることなど望んでいないだろう)が、各章で紹介される調査結果のまとめ方がコンパクトで、リサーチ・デザインも明瞭。
特に「第8章 ジェンダーをめぐる隠れたカリキュラム」はゼミや授業で取り上げるのに適している(今のところそういうゼミや授業の担当はないけど)。この調査から導かれる結果の一つは、「男女別名簿は女子の理系進路希望を高める」(p. 123)。なぜ?と思うような結果だろう。同時に、「教師から影響を受けているタイプの女子は、男女別名簿が使われていると性別役割分業を否定しやすい」(p. 124)。これに対してすぐ、「なお、第一の知見と第三の知見を受けて、『男女混合名簿をやめるべきである』という結論を導くことは、おそらく妥当ではない」(p. 124)とバランスの取れた考察を置いてくれているところが、本章がゼミや授業での紹介に推せる理由だ。
さらに「第9章 授業形式と教師への信頼」の調査では、「教師の増員なくして少人数授業を推進することは、学校現場にとっては難しいこと」(p. 135)をここで設定されたモデルの範囲で実証している。教育行政学や教育方法学でこの種の研究を行うことは少ないだろうが、学校関係者に向けて話をする際、あるいは学級編成・教職員定数について議論する際、教育社会学や教育心理学の知見を(無闇矢鱈にではなく)適切に参照することは必要不可欠なことだと思う。
と、『年報』の4ページに向き合ってみたら、指定のフォーマットに収めると加筆どころか要旨の2ページを圧縮したり削ったりする作業が必要だった。「そう言えば行政学会のネンポーはA5ぐらいのサイズの冊子でしたな」と思い出して、もともと要旨をきっちり書き込んでいたこともあって、わずかな修正を施し、提出した。上記の読書成果は別の原稿に活かすことにしよう。